都市域における洪水氾濫流の特徴や従来の直交格子による解析との相違を、非構造格子モデルを用いて評価しました。
近年、局地的な集中豪雨が都市部を中心として増加傾向にあると言われている。そのような状況の中で、特に内水氾濫を中心として、いかに的確にその氾濫状況を捉えるのかが課題となっている。従来の実務レベルの氾濫解析では、「デカルト座標系モデル(直行直角座標系モデル)」が多用されており、「一般曲線座標系モデル」も一部流域で用いられてはいるが、その適用例は少ない。
昨年度の鶴見川氾濫解析業務では、さらに的確な氾濫状況を表現するために、格子形成においてより自由度の高い「非構造格子モデル」を流域に適用し、解析を行った。なお、この手法は研究レベルで確立されるにとどまっており、適用実績は他社も含め極めて少ないため、先進的な例になると思われる。
氾濫解析は昔から行われてきたが、図-1に示すように、以前は、例えば盆地のような閉鎖的な場所であれば、単純に流入量と流出量とH-V関係とを使って浸水位を求めるような方法や、対象領域が山付のような細長く勾配のきつい、いわゆる流下型氾濫形態の場合には、氾濫原を含めた形で一次元的に解析する方法といった手法が採られてきた。しかし、特に低平地といった場所においては、氾濫は二次元的に拡がるため、二次元的に解析する必要性が高いが、計算機の発達と共にそれが可能になってきた。二次元的に解析する手法の中で簡便な手法として、ポンドモデルがある。これは、対象領域をポンド(池)に分割し、それらの間を仮想の管でつなぎ二次元的に解析する手法である。
1970年代後半頃から始まった平面二次元不定流モデルを用いた氾濫解析で最も一般的な手法は、「デカルト座標系モデル(直行直角座標系モデル)」である。これは、対象領域を長方形格子に区切り、解析を進める手法である。その後、これをベースに土地利用ごとの粗度係数や、家屋の占有率といった考え方を取り込み、精度向上が図られている。また、その後は主要な道路に沿った軸を設定し、道路に沿った流れを表現できるようにすることを目的として、「一般曲線座標系モデル」が開発された。この手法によれば、ある程度地目を考慮して、解析することが可能となったが、座標軸が2本に限られることから、考慮できる道路には限界がある。
そのような中で、より現実に近い氾濫現象を捉えるために、メッシュ分割において自由度が高く、エンジンや航空機の設計といった流体力学の分野で一般的になりつつあった「非構造格子モデル」が氾濫解析に応用された。なお、この「非構造格子モデル」は、地目を考慮してメッシュ分割できるために、より細かな道路上を流れる流れまで表現できるだけでなく、メッシュサイズに制限がほとんどない(ただし、計算の安定のために、隣接するメッシュサイズはそれほど差を持たせない方が良い。)ため、メッシュ数の削減を図ることが可能となり、計算時間の短縮を図れるというメリットもある。
表-1に、これらの氾濫解析モデルの比較をまとめた。また、都市域での低平地で氾濫解析を行う場合には、下水道の影響がかなりあるが、これらのモデル化については、図-1に示すとおりである。 今回用いた非構造格子モデルは、対象領域に直交(デカルト)座標軸を設定し、図-2に示すように、分割したメッシュの流量フラックスおよび流速をメッシュの辺の中点で、水深をメッシュの図心(重心)で定義し、それらをX、Y方向に分解し、Leap-Flog法を用いて計算を進めている。
また、氾濫解析を行う際に問題となる点に、ドライ状態の格子に氾濫水が伝播していく、いわゆる‘氾濫水の先端条件’がある。ここでは、過去の研究に従い、氾濫水が不連続になっている場合には、地盤高と水位の関係により段落ち式あるいは越流公式を用いてフラックスを計算している。なお、氾濫水の移動限界水深は、岩佐らの研究(岩佐義朗・井上和也・水鳥雅文:氾濫水の水理の数値解析法、京都大学防災研究所年報、第23号B-2、pp.305-317、1980.)に従い、0.001mとしている。

図-3 : 氾濫水の先端の取り扱い
ここでは、実際に鶴見川流域への適用について述べる。
鶴見川流域は、東京都南部の町田市を源流とし、神奈川県東部流れる河川延長42.5km、流域面積235km2の河川で、その約85%が市街化され、流域内人口約188万人の典型的な都市河川である。そして、鶴見川では、「特定都市河川浸水被害対策法」が制定され、河川、下水、都市計画の連携により浸水被害対策を総合的に推進してゆく体制をとっており、これまで内水ポンプ運転調整をはじめとして、流域水害対策計画の立案に資する協議が重ねられている。
次に、鶴見川のブロック分割図とL1ブロックにおけるメッシュ分割図とメッシュごとの土地利用、および地盤高図を以下の図-4、5、6に示す。
メッシュを分割する際には、「非構造格子モデル」の特性を活かすために、まずは『道路』に着目した。つまり、『道路』は一般的にも、他の土地利用とは粗度係数が大きく異なることからも予想されるように、先行的に氾濫水が拡がる可能性が高く、この点を表現できるようにすることが「非構造格子モデル」を導入する大きな目的でもある。そして、『道路』として扱うメッシュを決めると、次にそれらで囲まれた範囲を、一つのメッシュの中になるべく異なる土地利用が混在しないように分割した。また、他に気をつけた点として、建物を分断するようなことはしないようにした。これらの考え方により分割したメッシュが図-2であり、土地利用から見てもわかるとおり、従来のモデルでは反映しきれなかった『道路』がきれいに表現されている様子が見て取れる。
次に、最大浸水深の解析結果を図-7に、浸水深の時間変化を図-8に示す。また、参考として、「デカルト座標系(直交直角座標系)モデル」を用いた場合の解析結果も示す。
結論としては、以下のことが挙げられる。
・従来のモデルでは表現しきれなかった道路の的確な浸水状況を表現できるようになった。
・氾濫水が道路を伝って拡がっていく様子を表現することが可能になった。
また、課題としては、以下のようなことが挙げられる。
・本業務においても以前に比べればデータ作成においてかなりの省力化を図ることが出来たが、今後このモデルを広めようとすれば、更なる省力化が求められる。
・資産の貼り付け等数値地理情報との関連付けについては、課題が残っている。
・メッシュを切りなおしたことにより、堤防沿いのメッシュ地盤高が変わるため、氾濫ボリュームが変わり、過去の浸水想定区域等の整合を図ろうとすると難しくなる。
・本業務では土地利用を優先的に見てメッシュを切ったが、地盤高を強く意識したメッシュ作成についても見当の余地はあるのではないかと考える。
「非構造格子モデル」を業務で使う場合には、過去との整合や資産をどう決めるかといった点に課題はあるものの、氾濫状況を精度よく表現できているという点からは、有用性は高いものと思われる。